旧サイボーグ009(1968年)第16話「太平洋の亡霊」

監督芹川有吾 脚本辻真先


リプレイ・パールハーバー

ギルモア博士と009がなぜかパールハーバー湾内を航行している。「戦後30年経ってもまだ軍艦がひしめいておるわい。」などとアメリカ人の友人と話していると、空から戦闘機の一群が見える。「ちょうどあの方角です、日本軍が突っ込んできたのは。」009「特殊潜航艇という小さな潜水艦もきてたんでしょ?」「実はそれを最初に発見したのがわたしでして・・・ちょうどあのあたりから、気のせいか少し右へ傾いた潜望鏡が・・・ああー!!」潜望鏡が水面から現れる。「特殊潜水艇が?ば、馬鹿な!」戦闘機の一団が接近してきた。が、それは米軍機ではなかった。かつてパールハーバーを襲ったゼロ戦だ!ギルモア「見ろ、日の丸を付けているぞ!」ゼロ戦は米軍基地を襲撃する。次々と破壊される戦闘機、爆撃機。ヒッカム空軍基地は火の海。アメリカ人は「真珠湾の悲劇の再現じゃー!」と叫んだ。


連合艦隊完全復活

B-52が夜間飛行している。乗組員A「それで指揮官は今でも夜が怖いんだってよ。その『月光』って日本の夜間戦闘機は双発で、機体から斜めに銃が突き出ているんだ。」乗組員B「だらしないねえ、斜め銃と言ったって30年前じゃないか。」月が隠れる。と、B-52の下方に戦闘機の影が。「機体の後ろに何かいる。」「げ月光!」月光の斜め銃がB-52の腹を縦断。B-52空中爆発。

洋上では米軍の巡洋艦特攻機「桜花」の攻撃を受ける。巡洋艦は面舵で桜花を避けたと思ったが、桜花はジェット噴射によって方向転換、艦に激突する。さらに人間魚雷回天も出撃し、米艦隊に甚大な被害を与える。
009「ゼロ戦、月光、桜花、回天、これじゃ日本海軍全部だ!」006「まだ大物が出てないヨ。日本海軍のシンボル・・・」007「ああ、あの大戦艦、排水量6万9千100トンってやつ?」大和あっさり復活。


航空自衛隊機F−104。「こちらゲン一佐、金谷基地着陸許可願います。」通信が途絶える。「?」「ゲン、俺だタイラだ。左を見ろ。」F-104と平行してゼロ戦が飛んでいる。
「覚えているかゲン。薩摩富士に別れを告げて南へ飛んだあの日のことを。貴様は運が良かった。わずか一日の違いで命拾いしたな。」確かに人が乗っている。
「まさしくタイラだ。あの時のゼロ戦だ・・・。」
「ところで貴様は何に乗っている?」
「こ、これはもちろん航空自衛隊の・・・」
「では貴様はまだ戦争でメシを食っているんだな?!」
「戦争で?ば、馬鹿な!」
「ではなぜ武装している?」「・・・」
「俺は明日の平和を信じて命を捨てた。その死を犬死にさせる気か。戦争で儲け、戦争で食う日本人が一人でもいる限り死んだ我々に平和はない!」
「やめろ、やめてくれ!」恐怖から思わずミサイルを発射するゲン一佐。
「どうしてもやめない気だな、ようし、思い出の20ミリ機関砲を喰らうがよい!」F-104、ゼロ戦に後ろを取られて撃墜される。


被曝戦艦
009一行が「こ、これは一体・・・」と考え込んでる間に今度はビキニ環礁に沈んでいた連合艦隊旗艦「長門*1が復活して突如浮上。たまたま航行していた米艦は強烈な放射能を浴びて乗員全員死亡。
ギルモア博士「戦って沈まず、国敗れて敵の残忍な兵器の実験材料にされ沈められてしまった。長門に武人の心あらば、どんなにか口惜しかったことだろう。そうだ、長門にこそ大日本帝国海軍の怨みがこもっているのだ!」
長門に米軍の通常兵器はまったく通用しなかった。「40サンチ砲がこっちを向いたぞ!」長門、米艦隊を次々と撃沈。長門は強力な放射能を撒き散らしながらアメリカ本土に進路をとって航行している。これを阻止すべくついに米政府は長門核攻撃を決断、原爆を搭載したB-1が出撃する!
この情報を得た007(イギリス人)は激怒、002(アメリカ人)をキっと睨む。「やい、おまえの国が悪いんだゾ、(原爆を)持ってるからって気安く使うない!」002絶句。
ついに長門に原爆投下!しかし長門はビクともしなかった。まるでこの世の物理法則から自由な存在のようだった。長門はさらに強力な放射能で西海岸に突進してゆく。
その一方001はプロファイリングによってある人物を特定する。その名は超心理学者タイラ博士。彼の研究所がヨナ島(沖縄?)にあることを突きとめ、ドルフィン号で向かう。
009は海軍最後の戦闘機、雷電の襲撃、大和の46サンチ砲の攻撃をかいくぐり、タイラ博士の本拠地に潜入する。そこにタイラ博士はいた。頭に奇妙な機械をかぶって、悠々と座っていた。「来たか、サイボーグ諸君。」


たった一人で合衆国に宣戦布告

一見して温厚な紳士然としたタイラ博士は思念を実体化する機械を発明していた。「光あれと叫べば光ありき。(クワ!)連合艦隊復活!と叫べばぁ〜!!(ニッコリ)ご承知の通りさ。」「かくて長門は復活し、サンフランシスコへ出撃する。放射能を撒き散らし、地獄の炎で金門橋はアメのように曲がるだろう。」
009は「貴方は狂っている!」と言う。が、博士は「わたしは狂っていない、狂っているのは人間だ!お前たちだ!」と反論する。
かつて日本は誤れる戦争をし、多くの若い命を失うことになった。我々は彼らの霊に一体なんと誓ったか?」
広島の平和公園原爆ドームひめゆりの塔慰霊碑の前で手を合わせる老人と可憐な女学生が映し出される。
その画面に「日本国憲法第9条」がバーンと映し出される。


一、日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇、又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。

「我々は戦争放棄憲法によって定め、二度と軍隊は持たぬと宣言した。世界中が戦争はもうこりごりだ、そう心から考えたはずだ。なぜなら、それだけが死者の霊を慰める、たった一つの方法だったからだ。」慰霊碑の白いゆりの花。

二、前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。
                               日本国憲法第九条
 

原爆ドームに鳩が舞う。
「だが、いまやその誓いはむなしかった!」原爆ドームの鳩は退場し、爆撃機の編隊が空を蹂躙する。「世界の各国は軍備の拡張に、兵器の力を強める競争にしのぎを削っている。」慰霊碑のユリの花がポト・・・と落ちる。
「私の一人息子は戦争で死んだ・・・死者が生きて帰らぬ以上、生き残った我々は何をなすべきか・・・・・・(クワ!)これがわたしの回答だ!!!


サンフランシスコ大パニック

タイラ博士の思念が生んだ連合艦隊が米軍新鋭艦隊と大激突。長門ゼロ戦、桜花、人間魚雷「回天」の大群が彼らを襲う!叩いても叩いても次々と湧いて出る兵器に米軍はなすすべもない。星条旗は蜂の巣となって千切れ、原子力空母(ニミッツ?)は轟沈する。現代の米軍が、大日本帝国海軍の前に壊滅しようとしている。
あっははは。原子力空母に天罰が下ったぞ!火柱を上げておるわい。」
「やめろ!やめないか!」009は何度も博士を取り押さえようとするが、電磁バリアーに阻まれてはじかれてしまう。「無駄だというに。」
「いや、やめない!その悪魔の機械を破壊するまで僕はやめないぞ!」「なに、悪魔の機械だと?」
「そうだ、悪魔だ。貴方は神になったつもりだろうが違う、悪魔だ。貴方は戦争を憎むといいながら、戦いや憎悪を世界に撒き散らしているじゃないか!」「・・・」
「その念力でサンフランシスコを見てみるがいい。」
金門橋の向こう、水平線上に長門が見える。サンフランシスコ市民は大パニック、先を争って逃げて行く。阿鼻叫喚、さながらこの世の生き地獄。
「ぼうや〜」「うわ〜ん」パニックの中、母親が子供とはぐれた。群衆の中、乳母車が転がっていく。子を呼ぶ母の声が博士の頭から離れない。「い、いや、わたしは・・・。息子を弔うにはこれしか方法がないんだ!」そのとき・・・


召還

009「タイラ博士は亡くなりました・・・急に様子がおかしくなり、倒れてしまったのです。」
ギルモア「おそらく、自分の間違いに気がついたのだろう、何かの力がそうさせたのだ。・・・しかし分からん、本当に狂っていたのはタイラ博士だったのか、平和の名を借りて戦争の準備を怠らない人間どもの方なのか・・・」