第6話『ガラリヤ王救出作戦』

脚本/辻 真先 演出/藪下泰次 田中亮三
このシリーズの特長がよく出ている作品。009たちが国家に介入し政治改変に積極的に加担するという話である。たとえば007(ジェームズ・ボンドの方)は資本主義社会の維持のために、それを阻もうとする勢力を退治するが、国家の政治体制までは手を出せない。007の役目はこの世界のいわばバグ取りとも言える。しかしこのアニメでは、ある国が独裁に傾いたり戦争を始めようとすると、009たちは国家に直接介入して修正しようとするのだ。これは今で言う、USAのネオ・コンサーバテイブの思想に近い。

冒頭、001が初めてしゃべる。日本常駐組が食事をしている間、ギルモア博士はTV電話でガラリヤ王国の高官ヨゼフと会話している。ヨゼフはギルモアの大学の同期で、王の暗殺計画が進行している、中心人物は軍を掌握するオネスト隊長である、手を貸してほしいと要請してきたのだ。国家レベルの話に躊躇する博士だが、なんと、ヨゼフは会話の途中で後ろからナイフで刺されて殺される。画像を通して断末魔の表情を浮かべて息絶える人間の姿をリアルタイムで見てしまう009の面々。後ろに腕に蛇の刺青をした人間の姿が見える。
死を賭して報告してきた友人の意志に応えるために、009一行はガラリヤ王国潜入を決意する。彼らはバレエ団ととして入国する。ここでとんでもない見せ場が。飛行中の旅客機に軍用機が平行飛行、軍用機側からロープを渡して軍人が旅客機の方へ移動。『タワーリングインフェルノ』に出てきたビル間ロープウェイみたいやつを飛行中にやっている。できるか!そんなこと。これが単なる検問なのだが、つまり怪しい人物は空港に着陸前にUターンして引き返せ、ということか。
ガラリヤは外国人の入国にきびしい。入国後も絶えず監視される。抑圧的な社会のようである。こういうと北朝鮮を連想するが、都市の様相は西洋的であり、海に面しているところを見るとギリシアをモデルにしているのか?ウィキペディアによれば、67年、ギリシャではアメリカの介入により軍事独裁政権が誕生し、国王は国外に逃亡した、とあるのでこれをモデルにしているのかもしれない。
ホテルでオネスト隊長と会見した007は握手したときに腕に蛇の刺青があることを発見する。この辺は当時はやったスパイ映画みたいな展開である。
建国記念日に開催されるバレエ演奏会を王は鑑賞し、情報では暗殺はそこで行われる。これを003がバレエを演じながら監視し、暗殺を未然に防ぐというのが一つの見せ場。003は劇場版の流用ではなくちゃんと踊っている。003大活躍。銃を仕込んだバイオリンをトゥーシューズで粉砕し、天井のシャンデリアにジャンプする様を下から見上げるように描く。なかなか立体的な描写である。
ここで王を奪還した009たちは潜水艦(ドルフィン号ではない)に取りあえず逃げ込むが、ガラリヤの海空軍に取り囲まれる。絵ならば金がかからないとばかりにものすごい数の軍艦、空母、戦闘機、潜水艦が009たちを襲う。潜水艦は執拗な爆雷攻撃を受けて、持ちこたえられなくなるが、王はオネストを盲目的に信頼しており、反撃の名分を与えない。009は王が真実を受け入れるまで、無抵抗で攻撃に耐えることにする。このあたり、009たちは闇雲に戦うのではなく、きちんと法的な根拠を求める姿勢があり、理性的な脚本だと思う。
動きも良く、ストーリーにも破綻のない良作。脚本は辻真先、監督は藪下泰次、田中亮三。