第26話(最終回)『平和の戦士は死なず』

脚本/辻真先 演出/芹川有吾

TVニュースが入る。パブリック共和国の大型爆撃機C-29が36時間経った今現在も行方不明だという。TVを観ながら001にミルクをやっているギルモア博士は、パブリック共和国とウラー同盟の核開発競争に怒りを隠せない。001を初めとする子供たちの未来は・・・?
広島、広島平和記念公園。009と003は丹下健三の設計したモニュメントに跪いている。
009「昭和20年8月、か。もう30年近くにもなるんだね。」
003「いつまでも平和が続きますように・・・」
すると、それを引き継ぐように
「安らかに眠ってください。」「もうあやまちはくりかえしませんから。」と傍らで碑文を詠唱する人たちがいた。それは意外にも白人で、しかも軍人であった。小学生くらいの娘と一緒だった。
娘(声:白石冬美)「本当ね、こんなことが二度とあってはいけないわよね。」
父(声:内海賢二)「犠牲者はさぞ苦しかったことだろう・・・。」
それを見た003「やさしい人たちね。」そこへ車が止まり、軍人が出てくる。
「ネビル少佐、お迎えに上がりました、司令部から出頭せよとの命令です。」
「おお、そうか。」肩越しに原爆ドームが見える。このシーンだけ見ると、被爆から間もない時代のようにも見える。
「転属命令です。本国へ帰れますよ。」「何、本国へ、まさかあのミサイル基地の話じゃ・・・」怪訝な顔をして見守る93。
旅客機内。
「これで日本ともお別れね。」
「なに、またいつか帰ってくるときもあるさ。」
「ほんと?パパ、本当にそう思っているの?ウラー同盟と戦争になれば、最後の一人まで殺し合いになると言っていたじゃないの。」
「戦争になるとは限らないさ。」
「ウソ、だからパパのような優秀な軍人がミサイル基地に転勤に・・・」
「キャサリン、これだけは言っておく。私もパブリックの空軍少佐だ。戦争となれば祖国の為に真先に命を捨てる覚悟でいる。」
「祖国のため・・・大勢の人を殺すのね?何千人も、何万人も!」

TVニュース「パブリックの軽巡洋艦が領海を犯したとの理由でウラー同盟の艦隊に捕まりました。国連出席中だったジョン・ドゥ大統領は領海侵犯の事実はないと主張しましたが、一方ウラーのコルサコフ首相はパブリックのスパイ行為であるとし、強行に抗議しています。」TVを消すと、ブラウン管に反転した不安げな003の顔が映る。「戦争になるのかしら・・・。」
夜、自動車を運転するネビル少佐。
ネビルの独白「大陸間弾道ミサイル発射係・・・まったくゾっとしない役だ。」ミサイル基地の検問所を通るネビル。
「あの長距離水爆ミサイルが、私の押すボタン一つで太平洋を飛び越え、ウラーの首都マリングラードへ正確に命中する。そして、男も女も子供も年寄りも、幸せになったばかりの若い夫婦も一瞬のうちに命を絶たれ、そして、あのヒロシマの祈念碑に刻まれている「あやまち」が何百倍もの規模で繰り返される。平和を守るためには、こんな恐ろしい方法しかないのだろうか。」基地内を歩くネビル。
「ここが私の職場、ミサイルを発射する指令センターだ。この16のランプが全部点き、ガラスに覆われたブザーが鳴ったとき、私は発射ボタンを押さなければならない!」
若い士官「やあ少佐、今回もご一緒ですね、よろしく。」
「やあ、君のマスコットかね?それは。」机の上に女の子の小さな人形が置いてある。お世辞にも可愛いとは言えない。
「はあ、目障りでしょうか。」「そんなことはないさ、この部屋は殺風景過ぎるからな。ランプがいつ点くか、ブザーがいつ鳴るか、ハラハラしているよりは楽しいよ。」
ギルモア研究所。レーダーパネルを凝視する001
「ギルモア博士!何かが北氷洋を南下している。行き先はパブリックだ!」
「なんじゃと!ついにやりよったか!009、006、001、行け!パブリックが報復する前に何とかするんじゃ!」ジェットで出発する一行。
009「それにしてもどうしてこのところ、こんな事件ばかりがおこるようになったんだ?」ものすごい数のミサイルが飛んでいるのを発見する。
「すごい大群だ!これは手のつけようがない!」
ミサイル指令センター。
若い士官「しし少佐!は発進指令です!」
「ついに来るべきときが来た・・・」ボタンに手をかけるネビル。16のランプのうち、4つが点灯する。
キャサリンの声「祖国の為に殺すのね?」
ネビルの独白「そうだ・・・」8つ点灯する。
愛国者としての義務なのだ。」12個点灯。
「私の指が何万という人を殺す、それが義務!?」16個すべてが点灯する。
「神よ、赦したまえ・・・。」ブザーを仰ぐネビル。
「ブザーが鳴れば押さなければならない!」震える手をボタンに近づけるネビル。固唾を呑む指令室内の職員たち。
(つづく)