スタートレック宇宙大作戦「タロス星の幻怪人」後編

「・・・君があのスポックか?・・・気は確かか?」

法廷でカークたちはスポックが証拠として提示するドラマまがいの映像を見せられている。宇宙艦隊指令がタロス星からの電波を傍受し、この映像がタロス星から直接送られてきていることが判明する。この事実により、スポックは規約違反で死刑、カークは船長解任が濃厚となる。
その間にもエンタープライズはタロス星へ突進している。


タロス星の生存者はひどい生活にも係わらず健康だった。ビーナはその秘密を見せるわ、とパイクをとある岩山に案内する。と、その時ビーナが目の前で消えさる!同時に11人の生存者たちも一瞬に消滅した。すべては幻覚だったのだ(ここの光学処理はデジタルだろうか?)。パイクは岩山から突然現れた怪人たちに不意を襲われ拉致される。すべては罠だったのだ。通りがかる宇宙船を偽の情報で引き寄せ、幻覚を見せ次々と拉致し、標本にしていたのだ。
檻に監禁されたパイクの間にタロス星人が現れる。物質文明は崩壊し、思考能力のみが異常に発達した生物だった。「我々の思考を読み取り、その思考や体験を元に幻影を作り上げることが出来る。人の心に潜んだ欲望からもだ。それもあまりにもリアルで見過ごすことの出来ない幻をね。」


パイクはタロス星人が作り出した仮想現実に次々と放り込まれる。この辺の展開は「うる星やつら ビューティフル・ドリーマー」のようでもある。かつて屈辱的失敗を喫した星で戦い、自分の故郷へ帰り、オリオンの魔窟で怪しげな踊りを見たりする。パイクは様々な幻覚の中で、常にビーナという女が変わらず登場することに気がつく。どうやら彼女だけは幻覚ではないようなのだ。彼女と問答するうちにタロス星人の目的が明らかになっていく。彼らはこの星の再開発のために地上で繁殖できる知性体を探しており、今のところ最も適合できそうなのが地球人なのだ。快適な仮想現実の中でパイクとビーナにアダムとイブになっていただきたい、というのだ。パイクはタロス星人の計画に反発しながらもビーナに惹かれていくのだった。


ここまできたところで、現実のEPは、タロス星まで1時間の距離まで到達していた。スポックはとにかく映像を最後まで見てくれと頑として譲らない。映像の中ではEPの隊員たちはパイクを救助するべく、決死の転送を試みようとしていた。この直後のクライマックスに至って、二つの物語は想像を超える衝撃的な結末を迎える。


スタートレックの生みの親であるジーン・ロッデンベリーの脚本。TV内TVという複雑な構造ながら最後まで見ずに入られないプロットの構成が見事。スポックがカークを裏切るというショッキングな掴み、タロス星まであと何時間という時間の制約、結末のどんでん返しなどの大技とともに、伏線の張り方、駆け引きの応酬などの小技も効いている。

またこの結末は色々な意味で衝撃的だが、当時の身体障害者の置かれていた立場を示唆しているとも言える。私は「アウター・リミッツ」の『見知らぬ宇宙の相続人』と似たような印象を受けた。また、アニメやフィギュアの女の子に耽溺し、現実から逃避する若者の出現を予言していると言えば穿ち過ぎであろうか。


このタロス星の映像はスタートレック本放送以前に作られたパイロットフィルムを流用している(私は未見)。むしろ本編以上に作りこまれている。リサイクル有効活用ということであろうか。
パイク船長役は「キング・オブ・キングス」でキリストを演じたこともあるジェフリー・ハンター。パイロットフィルムに主演しただけで、本人の意思もあり本編を降板した。そのあとを継いだウィリアム・シャトナーは超人気者となり、ハンターは68年に急逝した。まったく世の中分からないものである(重度の障害者になった現実のパイクは別人が演じている)。

「あなたの現実に幸あらんことを。」