スタートレック宇宙大作戦「タロス星の幻怪人」前編

シリーズ最高傑作の呼び声が高い本作は今まで見ていなかったが、今回NHKBSにてデジタルリマスター判を見ることができた。予想以上の素晴らしい出来であり、問題作でもある。

カーク、スポック、マッコイの3人は宇宙基地M11へ降り立つ。エンタープライズ(以下EP)の前船長パイクから緊急連絡をスポックが受けたからだが、基地のメンデス准将はそのような事実はないと言う。パイクは確かにこの基地にいるが、通信できる状況でないはずだと言う。3人は集中治療室へ案内される。そしてそこに見たものは!顔はケロイドに塗れ、表情はなく目は虚ろ、身体は「ジョニーは戦場に行った」状態の変わり果てたパイク前船長の姿であった。彼は古い練習船で航行中制御版が爆発し、デルタ光線(?)を浴びたのである。
「パイク、君はEPに通信したかね?」「ピーピー」ブザー2回はNOという意味である。20世紀初頭の同じ境遇の兵士ですらモールス信号でもっと複雑な会話をしていたが、イエスとノーしか表現できないとは知能も減退しているのか。では一体誰がエンタープライズをここにおびき寄せたのか。

カークはパイクからEPを引き継いだが、スポックはすでにパイク船長の下で11年10ヶ月科学主任として行動を共にしていた。つまりカークより付き合いが長い。パイクと二人きりになったスポックは深刻な面持ちでパイクに話しかける。「・・・フルスピードでわずか6日のところです。慎重に計画しました。」「ピーピー」「そうです!これは反逆であり暴動でありますが、私はしなればなりません。」「ピーピー」「必ずやり遂げます!」

カークが基地でこの事件の真相を思案していた。マッコイ「彼は私たちと同じように考え、愛し、望み、そして夢みることができる・・・しかしそれを表現し他人に伝えることが出来ない。」メンデスはパイクが13年前のEP船長時、タロス星へ渡航した事実を重く見る。タロス星の件はトップシークレットであり、、連邦政府はタロス星に渡航する者は理由を問わず死刑に処すとしていた(どうもこのパイクの渡航がその原因と見られる)。
そのころスポックはパイクを連れてEPへ帰還、副船長としてクルーに虚偽の命令を伝え、自動操縦でEPを乗っ取る。行き先はもちろんタロス星である。40年前の作品だが、ノートパソコンのような通信機が各部屋にあり、どう見てもフロッピーディスクのような四角い薄い板をその側面に入れて情報を見る、というシーンがある。
EPに追いついたカークとメンデスが転送してくるの見計らって、スポックはあっさり投降する。「私を軍法会議にかけてください。」しかしEPはスポックの策略によりタロス星へ航路をロックオンされ、カークですら変更することができなくなっていた。

EPがタロス星へ突進している間に軍法会議が開かれる。カーク、メンデス、パイクが出席する。罪状を認めるスポックだが、犯罪の理由を問われて、では用意したビデオを見てくださいという。「タロス星へ行く理由をご説明します。」ビデオデッキのスイッチを入れると、壁面のスクリーンに映像が映る。それは驚くべき映像だった。
なんとそれはエンタープライズ号だった。スポックは13年前のEPだと説明する。EPの司令室に若いEP船長時代のパイクと科学主任だったスポック(本当に若い)が映っている。13年前なので装備や制服が微妙に変わっている。とにかくこの映像は特定の視点で撮影されているわけではなく客観的な映像であり、シーンもコロコロ変わる。どう見ても記録映像ではない。そう、これはTVドラマにしか見えない。メンデスは「ここは劇場ではない!宇宙法廷だぞ」と反発するが当然だろう。スポック「パイク大佐、これは現実に起こった出来事ですね?」「ピー」結局カーク一同はこの別バージョン「スタートレック」を(視聴者とともに)鑑賞するハメに陥る。

この作品がすごいのはまずこのメタ構造である。
作品はここから13年前のパイク船長の物語になる。タロス星付近でSOS通信を傍受したパイク一行は、タロス星に立ち寄ることにする。パイクは最初、乗り気ではなかった。職務の重責に疲れきったパイクは現在のマッコイに相当する老医師に弱音を吐く。「引退する時期じゃないかな・・・家に帰れるだけでもいい、近くに自然公園があって、馬を飼っているんだ。」医師は人間は偶然歩むことになった今を強く生き続けるのが当然だと諭す。
しかしスポックが生存者を確認するに及んで上陸を決意する。13年前のスポックは意外とリアクションが派手であり、感情表現が豊かである。
タロス星に降り立ったパイク、スポック一行はそこにテント生活をしていた老地球人の団体を発見する。無事を喜び合う一行、パイクはそこに若く美しい女性を見出す。ビーナというその女性はパイクを見て「素晴らしい標本だわ・・・」とつぶやく。この映像を観ている者たちがもうひとついた。それこそがタロス星の怪人だったのだ!
(つづく)
http://www3.nhk.or.jp/kaigai/startrek/