超絶ソ連SF映画『火を噴く惑星』

「グルグル巻きで苦しむ」と言えばこの映画のことも語らねばなるまい。
SF、特撮好きの方は必見の映画です。表紙を見れば分かりますが、ロケット、ロボット、恐竜、火山大噴火と特撮のすべてをひとつの映画に叩き込みますた。DVD絶賛レンタル中!

トンデモ映画である。馬鹿映画という人もある。わたしは何年か前の三百人劇場ソ連映画特集で観たが、場内失笑の連続だった。しかしどうしてもこの映画は否定できない。いやむしろいい映画であるといってよい。この映画には明らかに夢があり、スタッフもそれを本気で信じているかのようなのだ。隊員たちには野心がなく、また敵も出てこない。彼らがやりたいことは調査探求のみである。後半、隊員たちが陽気な音楽に乗って熱心に調査してるシーンがあるが、本当に楽しそうで、人間の生き方とはこういうものではないかと思えてくる(飽くまで個人的な意見)。
冒頭に字幕がでる。
「金星はいまだ謎に満ちている。われわれが空想で描いたこの未知の世界は現実とは違うかも知れないが、それは未来の人々が確認するに違いない。」
実に謙虚なことに、製作者はこの映画はデタラメです、と宣言している。未来から言おう、全然違います、当たってません
ベガ、カペラ、シリウスの3機の宇宙船が金星へ向かう。勇ましいナレーションが終わらないうちにカペラは隕石がぶつかって破壊、無情だ。残った2機の隊員は不十分な装備で、決死の覚悟で金星へ着陸を決意する。ケルン氏はアメリカ製ロボット「ジョンさん」に計算を求める。ケルン氏は目の鋭い、なかなかの俳優。「ジャストアモーメント」とか「OK」とか言うので彼はアメリカ人という設定なのかもしれない。「ベガの着陸船で3人、シリウスの着陸船で3人着陸する。シリウスで5人離陸する。一人残る。」「残るのは誰です?」「私です、サー。生命がない、最も重い。」非情だ。
このジョンさんは、頭部は『禁断の惑星』のロビー風、全体はメタリック感ある銀色で、かっこいいデザインである。手足の関節にはシリンダーが付いていて、理論上はこのシリンダーの伸縮によって手足が動くことになっているのだろう。
こうした緊迫した状況の中、着陸船は金星の厚い雲を突っ切っていく。
さすがソ連は広いのでロケ地には事欠かないのだろう、フィルターかけて岩場にスモークたくだけで、結構異星の雰囲気は出ている。宇宙服もレトロな感じでよい。宇宙服の外側に様々な工具をぶら下げていたり、ピッケルを持っていたりで、宇宙探検というより地球の辺境探査のような印象を受ける。ちょっと『デルス・ウザーラ』のロシアの探検隊を思い出す。
さて、ここで隊員たちが見たものは!恐怖の食人植物!ベロキラプトル!プテラノドン
金星は恐竜の惑星だったのだあ〜。
そして仲間うちでも、先のジョンさんが足を引っ張る。なにしろジョンさんは敬語でお伺いを立てないと命令を聞いてくれないロボットだったのだ!「ジョンさん、○○してください、お願いします。」こんな調子だ。おまけに人間より自己保存が優先で,雨でみんなが弱ってるのに自分だけ先に洞窟さがしてチャッカリ雨宿りしてるような奴なのだ。その一方で上半身を回転させて大木を引っ張ってきたり、ジャズを演奏したりして、役に立ってるんだかなんだか分からない。しかしケルン氏は彼に全幅の信頼を置いているようだ。この「自己優先」と「ジャズ演奏」がその後『2001年宇宙の旅』もびっくりの悲喜劇を生むことになる。
それにしてもこのジョンさんの発想はなんなのだろうか?映画で語られる語彙から類推するに、この世界では「平等」という理念が人間では完成されており、この平等思想が、とりあえず理性があるように見えるロボットにまで降りてきているのだろう。多分、奴隷状態だったロボットたちの粘り強い運動の結果、「ロボットに命令するときは敬語で」というところまで法制化されたのではないだろうか。さすが労働者の国ソ連である。
ところで映画にはエアカーが出てくる。これがまたメタリックな光沢がまぶしい優れもので、みたところ本当に浮いているように見える。しかし遅い。歩いた方が早い。ジョンさんとエアカーのフィギュアがあったら買うかも。
もう一つ面白いのは、「宇宙人は地球に来ていた」といういわゆる宇宙考古学とかオーパーツの発想があることである。宇宙考古学といえばドイツのデニケンだが、63年の段階ですでに普通に語られている。よく分からんが、こういうのはソ連の方が先だったのだろうか?考えてみれば、人間は宇宙人が作ったとか、キリストは宇宙人だったとかバチあたりなことは無神論でないと無理かもしれない。


****ここからネタバレ****


クライマックス、溶岩の中からジョンさんはケルン氏を含む二人を救出しようとする。しかし途中でジョンさんは「熱いのでメカが壊れる」「荷物を降ろします」といって二人を溶岩に投げ出そうとする(ロボット三原則はどうした?)。二人はすんでのところで他の隊員に救出されるが、ジョンさんはそのまま溶岩の藻屑となる。溶けるジョンさんを見てケルン氏は涙を流す。ついさっき彼に殺されそうになったのにもかかわらず・・・。この涙の意味は複雑で、不思議な余韻を残す。アメリカ映画では思いつかないだろう。