『2012』

  (盛大にネタバレしてます)


『2012』の前半は『日本沈没』(73年)のパロディだった。
一科学者が地球内部の異変を発見、秘密裏に人類救済プロジェクトが立ち上げられ、世界の国や富豪に金の無心、美術品が持ち出され、いよいよ大地震、とか『日本沈没』のストーリーを駆け足に辿っているようだ。クライマックスで大津波の時刻をスクリーンでシミュレーションするシーンも、『日本沈没』で沈没開始までの時間をスクリーン上で計算するシーンを思い出した。で、当の第一発見者の科学者は助からないし・・・。
もっとも、こちらは秘密を漏らそうとする奴は暗殺するし、露骨に金持ちばかり助けるし、『日本沈没』のような無常観はない。ある意味ではドライである。
ところで私は今までエメちゃんとか、エメ公呼ばわりしていたが、そろそろローランド・エメリッヒ監督とちゃんと呼んでも良いかもしれない。彼には作家性があると思う。
一つには本編(特撮以外のシーンということ)がちゃんと撮れているということ。マイケル・ベイと同列に扱われることが多いが、やたらカメラを繰り回すこともなく、人間が二人対峙しているシーンでは、カメラは全身が入るくらい引き気味に撮られており安定した構図を取ることが多い。保守的とも言えるが、撮影に対する態度が真面目なのだとも言えよう。
ロシアの富豪が登場するシーンは、一見無関係なボクシングの場面から始まる。このロシア人が「可愛い子分でも身を守るためにはアッサリ切る」性格を表現するためにわざわざ撮ったと分かってちょっとびっくりした。ほんとに実直な性格なのではと思う。
また、この監督の作家性を際立たせているのは、一つの舞台に複数の人間(または家族)の視点を絡ませる『グランドホテル』形式にこだわっているということだろう。エメリッヒの映画は、地球の大破局という特撮の見せ場と、各地で展開されている小ドラマが最後には集結して大きなドラマとなる、という二つのカタルシスを同時進行させる構成を採っている。これまた保守的と言えるが、すべてのパニック映画やSF映画がそれで成功してるわけではない(特にスピルバーグはこの形式は苦手なようだ)。
この映画の結末は確かに色々難点があるが(いや、毎度難点はあるんだが)、イエローストーン公園でちょっと著作についてやり取りをしただけの二人が同じ船に居合わせ、しかも作家が船に潜入してる時に(その時は作家とは知らず)オバマ似の科学者がその作家の本の引用をして、助けようと皆を説得しようとする・・・という設定など結構よく出来ていると思うが褒めすぎか?
私は人が思う以上に彼は映画的才能があると思う。これからももったいぶらないでドンドン撮っていただきたい。