『イングロリアス・バスターズ』

  (盛大にネタバレしています)

イングロリアス・バスターズ』は最後の方が『ガス人間第一号』なので思わず笑・・・感銘を受けた。基本はロバート・アルドリッチの『特攻大作戦』だが、そこにSF、ていうのがタランティーノである。
私は、今まで彼のことをタラちゃんエメ公呼ばわりしていたが、そろそろクエンティン・タランティーノ監督とちゃんと呼んだほうがいいかもしれない(と言いつつ以下QTと省略)。
劇場が燃える・・・これだけでピンと来たが、スクリーンが炎でめくれ上がり、噴煙に女の顔が大きく映し出されるシーンはまったくもって素晴らしいものだった。あまりの事に眩暈がした。
『ガス人間』にも半ガスとなった男のアップのシーンがあるが、見事に自分のものにしてヨリ圧倒的な映像を創造した。女、死してガス人間となり復讐を成就する・・・想像もつかないアイデアだ。
QTがただ映画の知識が豊富なオタク監督でなく、有り余る才能があることは間違いない。そのことは冒頭のフランスの草原のシーンを見ただけで分かる。こんな美しい草原を映画でみたことはここ十年トントなかったことである。なんであんな風に撮れるのかといえば、ただ丁寧に撮っているだけだと思う。映画に対する姿勢が真面目であり、信念があるということである。
また、今回小賢しい時系列の混乱もなく、どうでもいい無駄な会話もなく、入念な会話がサスペンスを醸成させていくという映画の常道を走る演出をしており、さすがのQTもいよいよ作家として成熟の域に達してきたのかと思わせる。そのため、ブラッド・ピットの存在は返って浮いており、最後の最後で本題に絡まないというQTらしい人を食った演出は、あんまりマジメにやりすぎたテレ隠しのように見えてくる。
この映画を観て、冒険をしなくなったとか、小ぶりになったとか言いたくなりそうだが、むしろ映像と語り口の密度は高くなっており、次回作ももったいぶらないでドンドン作っていただきたい。

ガス人間第1号 [DVD]

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