第12話『天かける巨人』

脚本/辻真先 演出/芹川有吾
このシリーズを観ていて感心するのは、毎回毎回、まったく違うジャンルの話を持ってくるということである。脚本はもとより、資料集めとかも大変だったのではないか。
今回の内容は「プロジェクトX」である。
ルネ博士は生涯をかけて巨大貨物輸送機「ターレス」を設計し、バルバラ共和国の航空会社社長モリスと共同開発を行っていた。試作機はほぼ完成の域に達していた。009はルネ博士に縁があって、風洞実験に立ち会う。
「わしはこの巨人機にヨーロッパの神話からターレスと名づけた。航続距離は4万キロ、つまり地上のどの空港にもガソリンを補給することなしに行って帰って来られるのだ。しかもマッハ3.5のスピードでだ。サンフランシスコから東京までこのスピード飛んだとしたら・・・たったの1時間54分だ。スピードを出すために操縦席の窓は離着陸の時のみスライドして現れる。万一の場合にはこの操縦カプセルが切り離され独立した小型飛行機になって飛行することが出来る。長さは110m、積める荷物の重さは100トン、つまり大型トラック20台も一遍に運べるわけだ。ところが飛行機は大きくなるほど長い滑走路が必要になってくるから、限られた大きな空港にしか着陸できない。だがわしのターレスはそれを解決したのだ。離着陸の時には主翼が移動して広がり、しかも特殊なフラップが出て空気の抵抗を増すので滑走距離は小型飛行機と同じ程度で済むのだ。だから、この巨大なターレスは世界中のどんな小さな空港でも荷物を送り届けることが出来るのだ。わしは全生涯の全てをこのターレスに賭けたのだ。いや、この年寄りの命の全てをターレスに捧げているのだ。やがてターレスが大空に羽ばたく時、地球の距離は縮められ、人々はどんな遠くの産物も楽に手に入れることが出来るだろう。そうだ、この天かける巨人が世界航空輸送の歴史を変えてしまうのだ。」ということを青写真(死語か?)付きで一気に説明する。
飛行機の燃料ってガソリンか?とか、それほど小さい空港に荷物を輸送する需要がそれほどあるのかという経済学的な問題はさておくとして、実にリアルかつ熱い設定にワクワクしますね。
いよいよテスト機が稼動する日が来た。でかい。ボーイング727の10倍以上ありそう。コンコルドに似ているが、片翼につき3つのジェットエンジンが付いている。アナウンサーは重量400トンと解説。飛行機そのものは主役なので、アニメ表現が緻密だ。が、しかし前輪の軸に亀裂が走り、飛ぶ前に転倒し大破してしまう。何者かの陰謀か?
ルネ博士は責任をとって辞任を申し出る。ルネ「私は夢を見ておった・・・だがその老いぼれ科学者の夢がモリス航空に大損害を与えてしまった・・・」009「あなたはターレスを自分ひとりの夢だと思っているのですか。でもそうじゃありません。ターレスはモリス航空に働くみんなの夢なんです。」希望に目を輝かせて現場で働く作業員の姿がダブる。「あなたが夢を捨てると言うことはあの大勢の人たちを捨てるということです。それでもあなたは捨てていくのですか、このターレスを!」モリス社長「悪い冗談はやめよう、もう仕事は始まっているんだ。」「仕事?」「そう、ターレス二号機だ!」
ということで復帰したルネ博士の下、職員の獅子奮迅の働きで着々と二号機は完成しつつあるが・・・今度は操縦カプセルが大爆発。これは、やはり!しかしルネは失意のうちにモリスに黙って帰国するのだった。操縦カプセルのスペアはあるのでテスト続行をしようとするモリスだったが、パイロットがいないことに気がつく。先の事故で重症を負っているのだ。あきらめるモリス社長の背後から009が声をかけた。「僕は操縦席を見ているし、操縦の要領もルネさんに教えてもらっています。操縦は僕がやります!」
というわけでターレス二号機のテスト飛行がいよいよ始まるのだったが・・・
結末が泣ける。はっきり言って傑作。ラストのコーラスが美しいが、音楽の小杉太一郎は伊福部昭の弟子である。