第47話『バーム大佐の脳細胞』

宇宙開発が本格的に始動する時代、軍は一つの壁に突き当たっていた。宇宙において普通のコンピューターでは不測の事態に対応できない。かといって過酷な宇宙空間で生身の人間の活動は限られている。遠隔操作は外宇宙では時間かかり過ぎ。そこで人間の脳を搭載したコンピューターを作ってはどうか、ということになる。そこで優秀だが不治の病で余命いくばくも無い(都合良すぎ!)というバーム大佐(アンソニー・アイスリー)に声がかかる。いくらもうすぐ死ぬと言ってもこんな実験を承諾する人もいないと思うのだが、美人の奥さんジェニファー(エリザベス・ペリー)がいるにもかかわらず、バーム大佐は承諾する。天才を自負するバーム大佐は、心血注いだ宇宙開発に異常な未練があったのだ。
しかしこの計画、法律的にはどうするのだろう。「死んだ」ということにするのか。脳付コンピューターということで器物ということになるのか。
「教育すれば最高の頭脳になるかもしれん、宇宙の謎を解く頭脳にな。」「神をも超えるかもしれません。」


脳だけになったバーム大佐は開口一番「痛い。」と言うのだが、これは現実に近いのではないか。筒井康隆の短編でも脳だけになる男の話があるが、あれはゾっとした。こちらは音声、視覚、聴覚も電子的に繋げてあるので破格の待遇である。
チームの一人、心理学者のマッキンノン少佐(グラント・ウィリアムス)はもともとこの計画に異を唱えていた。「理性は部分的に体とつながっていて、身体的欲求を感じたり、満足感を得たり、失望したりするのです。」つまり心と身体は別物ではなく、補完し合っている。身体という枷(かせ)から解き放たれた脳は、自我を思うがままに拡大してしまう。いままで人類がなしえなかった精神の領域に達するのではないか・・・。一体何が起こるか分からない、そういう警告だろう。そういえば『アルタード・ステーツ』という映画では、比重の高い液体の入ったカプセルにプカプカ浮かんであらゆる刺激から解き放たれて瞑想すると脳の隠された能力が覚醒する、というのがあったが、あれも擬似「脳だけ状態」と言えるかもしれない。最近のサイバーSFを見ると、「脳だけいいんじゃないの?」とかそういう意識の拡大に肯定的な見方もあるのだが、この時代、人間の精神はおそらくそれに耐えられず自滅するであろうという悲観的な考えのほうが強かった。


で、その不安は的中する。とにかくバーム大佐、自力で動けないのにすごく態度が大きくなり、命令口調になる。「私に悩みなどない、あれは人間特有のものだ。どれ、君の悩みを聞いてやろう。楽になるぞ。」アンテナで人の会話を立ち聞きしている様子が怖い。
容器内に余裕があるので、脳が育って大きくなる。「容器をもっと大きくしろ。割れないうちにな。」ほどなくして研究員がジェニファーに襲い掛かるという事件も発生。原因は不明だが、バーム脳に関係すると見たマッキンノンは警告するが、科学者は耳を貸さずバーム脳の育成に邁進する。バーム大佐の暴走はとどまるところを知らず、マッキンノンとジェニファーが接近していることを察知したバーム大佐は・・・
彼の能力拡大の原動力が奥さんへの執着心だったというのが哀しい。