「ロジャー&ミー」と「アトミック・カフェ」

Joetip2004-02-20

「ロジャー&ミー」(DVD、マイケル・ムーア監督)はいい映画だ。構成力といい映像の迫力といい、「ボウリング・フォー・コロンバイン」より優れている。「ボウリング・・・」は無理して笑いと取ろうとしている感がある。この映画は、ユーモアは忘れないものの、ムーア氏が対象に真正面から取り組むひたむきさをストレートに感じる。これを映画機材の使い方も知らない失業中の男が撮った、ということに驚く。勇気付けられるし、嫉妬すら感じる。
80年代、ゼネラル・モーター社は、経費削減を目論み、工場の拠点を海外(メキシコ)に移し、本社のあるフリント市の労働者を8万人のうち3万人を一斉に解雇した。立ち退く市民、無人の住宅街、シャッター商店街。市は新たな産業として観光都市化を目指すが、典型的なハコモノ行政で、返って負債を抱えたまま頓挫。そして治安は悪化し、街はスラム化し、富める者は銃で武装する・・・まさしく日本が進んでいる道。そしてこのフリント市は03年に至って失業者は6万5千人、状況はさらに悪くなっているという。
音声解説でムーア監督は言う。


「本作では僕と同じ意見の人はあまり登場しない。例えば労組の代表や政治活動家は出てこない。反対の意見を聞くほうが得るものが多いからだ。賛同者を集めて持論を主張する映画なんてひどく退屈だし観る気など起こらない。」


この映画の撮影スタッフでケビン・ラファティ(現ブッシュ大統領のイトコだそうだ)と言う人がいるが、彼は83年に「アトミック・カフェ」というドキュメンタリー映画を撮っている。これは50年代の米政府が核兵器放射能について国民にどう説明してきたか、を描いている。その手法は、現存するTVでのインタビュー、政府広報、PR映画の映像をそのまま流す、というものだった。収集した映像をコラージュし編集はするが、外からのコメントも、新たに撮った映像も一切つけなかった。
しかしこの映画を観ると、あたかも一つの物語が語られるように見える。その映像の中の政府高官や軍人、アニメの人物は嬉々としてとんでもないことを言う「放射能で毛が抜けてもすぐ生えてきます。」「原爆が落ちたら伏せて隠れろ。」「放射能は口や傷口から進入します。」・・・狂っているとしか思えないが、こうした政府寄りの言動から見えてくるものが確かにある。監督が撮った映像など一つもないのに、監督のメッセージを強く感じる優れた映画である。
「ロジャー&ミー」を観てると、前半のフリント市の歴史、や時に挿入されるニュース映像などに「アトミック・カフェ」の影響があるように見える。「アトミック・カフェ」は東京では私の知る限り渋谷TUTAYAにしかないようだが、機会があったら観ることをおすすめします。