『ヤマトタケル』

新橋演舞場で見たのは平成7年だから1995年。NHKで放送していたのを録画したのは98年くらいか。90年代、市川猿之助梅原猛はかなりの人気者だったと思う。私も『隠された十字架』とか『水底の歌』とか読んで歴史は実はこうだったのか!マジかよとか言って読んでいた。『ヤマトタケル』は今も上演されているが今は弟子の市川右近が演じている。市川猿之助の息子が香川照之

猿之助+梅原の『ヤマトタケル』は基本的にはアメリカン・ニューシネマ時代の西部劇みたいな話で、日本にフロンティアを広げようとする新興国ヤマトとそれに抗する先住民の対立の物語として描かれている。九州、相模の国の先住民はジリジリと広げつつあるヤマトの侵攻に危機感を抱き、ついに決起するのだが、ヤマトタケルの前に九州勢は決起する前に謀殺、相模国もうまいことタケルを攻略しかかったが詰めが甘く返り討ちにあってしまう。相模国の頭領ヤイレポとヤイラムが悲壮な覚悟でタケルに立ち向かってゆく様には涙を禁じえない。

タケルの方はと言うと、優しさゆえに、また父親に認められたい一心で行動すると逆に大切なものを次々に失っていくという不幸な人間として描かれる。もともと古事記の記述がそうなのだが、日本人の戦争観、判官びいき的発想など、相当に古いものだということがうかがわれる。

この演劇がすごいのは、これだけ脚色してるのにストーリー展開としては、ほぼ原作の古事記の記述の通りになっており、破綻がないということである。タケルが自分の兄を惨殺(?)したことからラスボスの伊吹山の神まで描いていて、むしろこれだけ原作に忠実な二次創作物はないのでないかと思う。その一方でタケルの部下に先住民出身の者を配することによってタケルに対する客観的な視点設けていたりする。先住民代表の部下タケヒコが最初タケルに冷ややかな態度だったのが行動を共にするうちに共感していくというのもなんかニューシネマ的である。

TVで切られていた場面は、国津神たちが伊吹山で決起集会を開くシーン(無論原作にはない)。タケルが草薙の剣を持ってこないという情報を得た彼らはほくそ笑む。
「傲慢・・・油断・・・ヤマトタケルは神ではない、所詮人間であったわ!」勝利を確信する国津神連合であった。