NHKBS-hi『出エジプト記の’真実’』

あのジェームス・キャメロンが製作しているというので観て見た。
出エジプト記に考古学的な裏づけがあるのか、これは私も興味を持っていた。なんとなれば、聖書の方ではご存知とんでもない大スペクタクル史劇として描かれているのに、あの、高度な文明を誇り、文字記録などいくらでもあるエジプト王朝の方にはなんの記述も残っていないからである。この温度差は異常だろう。実際の事件を元にしてるとしたら、なんらかの政治的な理由があるのではなかろうか。

実際観て驚いた。これほどのトンデモ話とは思わなかった。悪く言えば『ダビンチコード』並、よく言って川口探検隊並みである。とにかくシムカ・ヤコボビッチ監督一行の行く先々でものすごく都合よく大発見があるのだ。
広大な荒野の中の一洞窟に入ってみたら、当時のユダヤ人の奴隷の落書きを発見、遺跡を掘ればヘブライ語の印章が複数発見・・・で、「これは・・・・に違いない!」の断定の連続。正直言ってそんな大発見ならとっくに公的に認められて、スクープになってると思うのだが。
思うように調査できないのはエジプト政府が許可してくれないからと、エジプト人悪玉扱い。調査態度にも問題があると思うのだが・・・あんたらやたら貴重な遺物に触りまくってるだろ?監督、ポケットから手を突っ込みながらインタビューするのはやめてくれ。
「海が割れた」という事象については、実はあれは紅海ではなく、「葦の海」と呼ばれていた地中海沿いに点在していた「湖」だった、という説。イスラエルの神がエジプトにもたらした10の災厄は、サントリーニ島の大噴火による災害の様子を元にしているという説。この二つは論議に値するが、しかしそれは結構以前から複数の学者が指摘していたことであって、今回の発見ではない。大噴火については、地層を調べて、火山灰の地層と王朝の年代とが一致すれば一発で分かると思うが?
挙句の果てに彼らは、真のシナイ山(モーゼが十戒を賜った場所)を突き止め、失われたアークの真相も突き止めてしまうのだ。もう大盤振る舞い。
あまりにも結論ありきの展開で、正直笑った。『ダビンチコード』のようにフィクションの体裁でやれば面白かったですむんだけど。ちょいとでも学術的な話を期待していた俺が甘かった。
しかしキャメロンにしても、メル・ギブソン角川春樹氏にしても、大金を掴んだ映画人はあちら側の方へ行ってしまう傾向があるのかね。やはり有り余る想像力がそうさせてしまうのか。

以前、ノアの箱舟の跡を発見した!というドキュメンタリーをビデオで見たことがあるが、まだあっちの方が客観性があった。いや、実際アララト山の麓に巨大な舟形の地形があるのだよ。骨組みに使われた?とされる木材も出土して、これはまさか?しかし自然にできた地形かもしれないという可能性も示唆して曖昧に終わっていた。まあドキュメンタリーとしてならばそれが限界だろう。