『ゴジラ FINAL WARS』感想

一体全体、4日間もかけてレビューを書く必要はあったのか、いや、ない。しかし書かずにはいられない、何かこう、いじくりたくなる誘惑がこの映画にはある。過去の東宝特撮映画をふまえた展開、ガジェットを結構丁寧に取り出しており、オタク心をくすぐる。一応ストーリーの筋は通っている(南極から日本へ行く件は置いといて)。子供から、お父さん、女性、格闘技ファンまで幅広い支持を得ようという戦略がある。北村監督は、ワンパターンなガンファイトとか、ゴジラをハリウッド進出の踏み台にしているだけなのでは、とか色々言われているが、特撮映画についてかなり研究していると見ている。だからこれだけ荒唐無稽な設定と多数の怪獣を登場させても最後までとりあえず鑑賞に堪ええる。その意味でいい加減な映画ではない。
しかしそうは言っても、この映画を全面的に賞賛する気にはなれない。
ずばり言ってこの映画には心がない。怪獣たちに対して愛がないのは、キングシーサーの扱いを見れば分かる。

キングシーサー
「朱銅色のウロコに包まれた怪獣で、沖縄の安豆味王族の守護神。その昔、王家が本土の人間に滅ぼされそうになったとき、救いに現れたという伝説がある。
(中略)
王族の末裔、国頭那美の歌う「ミヤラビの祈り」によって眠りから覚める。」
野村宏平編 『ゴジラ大辞典』より)

と、このような出自のキングシーサーが沖縄を襲撃するわけがない。大雑把に言って、「沖縄のモスラ」みたいなものである。私など、制作発表時の怪獣のリストを見て、「ははあ、モスラキングシーサーが共闘してゴジラかモンスターXを倒そうとするんだな」と思ったくらいである。この映画に彼を出した理由は、下半身に特徴がなく、人間みたいにしても違和感がないからアンギラスシューティングにちょうどいいと思ったのであろう。
このキングシーサーの登場する『ゴジラ対メカゴジラ』は駄目駄目と言われていた昭和後期の作品で、監督はこれまたゴジラを駄目にしたと言われた福田純である。正直この映画、トロい上に都合のいい展開でお世辞にもいい映画とは言えない。しかしそれでも、怪獣を出すのにこれくらいの動機付けは行ったのである。
怪獣のそれぞれの出自や境遇などを取っ払って、怪獣を駒のように使って純粋に面白いアクションシーンを撮ることを是とするか否か、その辺もこの映画の評価の分かれ目だろう。私はどうにも駄目である。

もう一つの問題点として、怪獣と互角に戦える「超人」を出してしまったことである。
かつてゴジラシリーズでこのようなミュータントが出たことはなかった。平成ゴジラに超能力少女がメインキャラで登場したが、ゴジラと交信ができるという程度のことであった。この映画のように普通の人間がどんなに努力しても到達できないような身体能力を持った人間が出現したら、もう何でもアリになってしまうではないか。いや、だから何でもアリの世界を狙ったんだ、って言われればそれまでですが、ならば普通の人間の努力はどうなる。なんだかドーピングで金メダルを取るようで居心地が悪いです。
あの最低の作品といわれている『地球攻撃命令 ゴジラガイガン』ですら、宇宙人の侵略から地球を守ったのは、フーテンと売れない漫画家と空手美女の勇気と頓智だった。これは私のとんだ思い込みだったのかも知れないが、ゴジラシリーズ(それ以外の東宝特撮映画でも)は、ズバ抜けた才能のない市井の人間が知恵と勇気を出し合って危機を切り抜ける・・・人間に対する信頼、可能性を信じるという点では共通するものがあったと思う。これについては、『ゴジラ対メガロ』まで脚本を執筆した関沢新一の功績が大きいだろう。
『FINAL WARS』ではあまつさえ、超能力者がどう言う方法か分からないが、ピンチのゴジラにエネルギーを注入し助けてやるシーンすらある。ゴジラが人間に助けられるなんて、超能力者という本来存在しない人々だからできることではある。
怪獣と人間が戦っても一向に構わないと思うが、なぜ普通の人間が体を鍛えて怪獣に勝ってはいけないのだろうか。ドンフライ先生は宇宙人と互角に戦えそうだったが。ゴジラがピンチだったら、普通の人間が知恵と勇気を出してフォローしてやればいいではないか。それでも十分面白い映画撮れると思うがどうだろうか?とにかく超人を出すのは反対だ、しかもカイザーって・・・日本人にメシア思想は似合わないと思う。
ゴジラを助けるという話で今、思い出すのは『メカゴジラの逆襲』の薄幸の女性であるが・・・ネタバレになるので仔細は省く。
そういうわけで、後半部分ではかなり居心地が悪かった。それゆえ、ミニラと人間の子供が出てきてああいう行動に出たところでは心底ホっとした。これを馬鹿にする記事も読んだが、子供が地球の危機を救ったのである。いい話ではないか。まあそこに至るまでの展開がひどいんだが。
こうして見ると確かに『FINAL WARS』は知識も豊富だし、見せ場も多いが、ひょっとして根本的なところで昭和ゴジラの一番ダメな部分にも劣るのではないかと思う。