『ハート・ロッカー』

観にいくつもりはなかったのだが、cinemascapeでの評価が意外と低くく（アカデミー作品賞なのに３点が一番多いというのはどうかと思う）、ちょっと興味が出てきたので１８００円払って観にいった。
で、感想はやはりつまらない映画だった。やはりシネスケは信頼できる。
冒頭のツカミのシーン、爆発をバックに防護服を着た兵士が飛び上がっている（吹き飛ばされてる？）ところをこともあろうに望遠で撮っているのだが、これだと爆心地と兵士との距離が分からず、これだけ近かったら助からないのではという観客の不安が喚起できない。この間の抜けた爆発シーン見て、初期の仮面ライダー（V3あたりまでかな）が爆発をバックにオートバイごとジャンプするシーンを連想してしまった。でも仮面ライダーの爆発シーンって人間が煙に隠れるほど至近距離で爆発させてるんだよな。結構命がけですよ。今はCGだかデジタルだかよく知らないけどもっと安全に撮られているんでしょうけど。
「爆発処理班」という誰が撮っても面白くなりそうな題材で、サスペンスのタメ（ヒチコック的に言えば『醸成』）もなく、爆発シーンも迫力がなく、一体何がしたくてこの映画を撮ろうと思ったのだろう？それにしても前述のシーンであの防護服の兵士が死んだ、と認識できた人はどれくらいいたのか。私は次のシーンで遺品のやり取りがあったので、「あ、なんだ死んだのか」とやっと認識できました。これ、私がアホなのか？でも全編通じて大体こんな感じでした。
登場人物がどういう人間なのかほとんど説明がなく、感情移入できないので、誰が死んでも別にどうでもいいやと感じてしまう。次は誰の番なんだとかこんな良い人が爆死したら嫌だなあ、とか観客に思わせないと緊張感て生まれないと思うのだけど、全然ないです。しかも主人公は恐怖感がマヒしてどんな危険な現場にも喜んで行くような人らしいが（『戦争は麻薬である』という警句が出てくるのでそれを象徴する人物なのであろうと解釈しました）その設定を生かそうともしていない演出にもびっくりした。
普通、他の人間ならタイムリミットで退散するような現場でも爆発ギリギリまで粘ってハラハラさせるんだろうなと期待すると思うのだがそんなシーンもないです。いや、あったらしいのだけど気がつかなかったわ。昔『ジャガーノート』という映画があって、豪華客船に仕掛けられた爆弾の話なんだけど、この映画では配線２本でかなりハラハラさせられたものだが、古いと思われてもそれくらいのことはやってもいいのではないかと思いました。
むしろ、中盤の砂漠で銃撃を受けるシーンの方がよくできていると感じた。遠くの敵が撃つと銃口が光る（望遠レンズの正しい使い方）、ちょっと間があってこっちの兵士が倒れるシーンは先ほどの爆発シーンとは逆に双方の距離感がよく出ている。才能のない監督ではないんだなとは思う。
こう言うと、いや、この映画はそのような庶民を楽しませる趣向の下賎な映画じゃないんだよ、イラク戦争の実態や極限状況に追い込まれた人間の内面を描いた高尚な映画なんだよ、と諭されるかも知れない。しかしそんな高尚なこと描いてたっけ。まず観ているこちらが緊張しないのに、兵士の極限状態が描けているも何もないだろう。また、ドキュメンタリータッチと言えば聞こえはいいが、淡々と撮っているだけで今行われている戦争に対するメッセージ性は巧妙に回避されており、末端の兵士はこれだけ疲弊している勘弁してくれ！とも受け取れるし、現場の兵士はこれだけがんばってるんだからイラク戦争には意味がある！とも受け取れる。こうした曖昧な立場を可能にしているのは、「敵の姿が見えない」という一見リアルだが実に都合のいい手法である。
以前「淡々とした演出だと高尚な映画に見えると勘違いしている映画」のことを書いたことがあるが（『亡国のイージス』）、これは「敵が見えないという演出だと高尚な戦争映画に見えると勘違いしている映画」である。いや、勘違いではなく分かっているのだろう。だからアカデミー作品賞を受賞できたのである。考えてみれば、米軍の兵士同士が思想の対立から殺しあう『アバター』や、軍隊の多国籍企業化にまで踏み込んだ『第９地区』が受賞するわけがない。
『ハート・ロッカー』を観て良かったと思った唯一の点は、『第９地区』と、大した映画じゃないなと思っていた『アバター』がこの映画に比べればいかにすごい映画だったか再認識できたことだ。特に『アバター』についてはポイントが１点上がった。断言してもいいが、２０年後には『ハート・ロッカー』について語るものはほとんどいないだろう、しかし『アバター』『第９地区』についてはつい昨日観たかのように映画ファンは語るだろう。そういうものだ。

仮面ライダーV3対デストロン怪人【劇場版】 [VHS]

え、これDVDないんだ・・・爆発は芸術だ！

ジャガーノート [DVD]