正月の動向

自分のところの東京の実家へ嫁と。両親とも80を過ぎているがなぜか元気。家、人間ともに、本当に老いた、朽ちかけた家族だと思う。唯一の光明は次男の子供、姪と甥だが、一家団欒中に二人とも『スティールボールラン』を読みふけっている始末。「最初のジョジョが連載されたとき、君は生まれていなかった。」と言うと目を丸くされる。母、昔(1960年代)の写真アルバムを見て「このころが一番楽しかったなあ・・・」とつぶやく。母に会うたびに、こんなバカですまない、という気持ちで一杯になる。外で全員で写真を撮る。
帰りに嫁と池上本門寺で初詣。途中で道に迷って嫁からの信頼を失いかける。そういえばここへ来るのは20年以上前か?池上本門寺日蓮上人が入滅した場所に建立された。巨大な敷地を誇る由緒正しい寺である。本殿はコンクリート製で新しいが、石段は加藤清正が寄進したと云われる。また空襲を免れた関東で最も古く、また堂々たる五重塔がある。有名人の墓所では、幸田露伴、文の幸田家、力道山市川雷蔵の各氏が埋葬されている。春には桜の名所となる。境内で猿回しを見てたこやきを食べて元旦は終わり。

2日、嫁の実家、埼玉へ行く。渋谷へ出ると、もう大宮はすぐ。便利になった。大宮をバスで出ると、ほどなく田畑や雑木林ばかりの土地となる。こちらの両親は私の方より10歳若く、元気だ。部屋もきれいに片付けられていて、部屋の隅にはシクラメンの鉢が飾られ、壁には書画が飾られている。ごみ屋敷同然のうちの実家とは大違いだ。このあたりで再開発がほどなく始まり、地価が高騰する!という羽振りのいい話。新しい駅もできるらしい。マジか。近くの繁華街(神奈川で言えば海老名市のレベル)で回転寿司をごちそうになる。はっきり言ってうまかった。

3日、午前中暇なので近くのグランベリーモールで買い物をし、家具の新調を企てるが、帰りにとんでもない渋滞に巻き込まれる。一体年明け3日目からみんな何をガツガツしているのやら。

あたふたするうちに友人の主催する新年会に遅れて6時に着く。相変わらずアニメと特撮という、普通の社会人だったらフーンと一瞬で終わってしまうジャンルを延々と話す会合である。
A氏がTV特撮『サンダーマスク』を見せてくれる。いわゆる問題作「シンナーマン」の回である。以前にもちょとだけ見たことがあるがこれほど画質のいいものは初めてだった。しかしながら内容はまったくひどいものだった。シンナー中毒をテーマにしているからひどいのではなく、TV放映作品として信じられないくらいレベルが低いのだ。同時期、円谷プロは『ウルトラマンA』で、これも全盛期から見れば見劣りがするが、それでも「シンナーマン」に比べれば、チラシの裏の落書きと国宝くらいの差がある。もちろんスタッフの労働意欲を疑うわけではない。これが精一杯だったのだろう。予算がない、人がいない、では限界がある。足りない時間で頭を絞った末にひねり出したのが「シンナー」だったのだろう。こういう「底抜け作品」を見ると、返ってその裏に存在したはずのスタッフとかの葛藤を意識し、想像を喚起される。時々こういうのを見たくなる理由はその辺だろう。
その後、大映映画予告編特集というのを観て、全盛期の大映の特撮が東宝に引けをとらなかったことを発見する。この大映が倒産したのが『サンダーマスク』の頃である。映画、TV、政治、共に混沌とした時代だった。決して文化的に衰退していたとは思わないが、今思い出すと凄まじいばかりの玉石混同乱立ぶりだったと思う。
ピエール・パオロ・パゾリーニ監督の『ソドムの市』で役者が本物のウンコを食うというとネタバレなのかという話とかに花を咲かせた後、T氏がスタローン原理主義者のK氏に萌えアニメを体験させて、屈服させるだか、洗脳させるだか、よく分からない論争を延々と繰り返し、日本酒の飲みすぎもあり、不覚にも寝てしまう。確かに萌えアニメにも人を感動させ、人生を変えてしまう作品もあると思う(よくわからないが)。ジャンルではなくて作品に感動するのだとしか言えない。
その後朝までウダウダした後、6時に失敬し、家でちょっと仮眠したあと出社。頭が痛く、吐き気もする。
その4日、昼休みに雑誌のTV欄を何気なく見ていたら、とんでもないことを発見する。BS2午後3時『真夏の夜の夢』とあるがこれってひょっとしてイジィ・トルンカのアニメのやつ?正月に何気にさらっとこんなのをやってしまうのがNHKBSだ!3時つったらあと15分しかないじゃん。あわてて携帯で自宅に電話したら幸運にも嫁がいたので、録画してもらう。嫁と便利なHDDに感謝する。
トルンカの『真夏の夜の夢』はシェイクスピアの原作としてはどうなのかわからないが、アニメ的にはドすごい作品。生きているとしか思えない流麗な人形の動き、壮大なセット、絢爛な美術、暗さを強調した色彩設定、などなどほとんど完璧な映画。特に森の女王、ティターニアが登場するシーンは素晴らしい。テイターニアの周りを無数の妖精が羽をパタパタさせて傅くシーンは美しいの一言。ほんとにこんな妖精がいるのかと思ってしまう。
私は一昨年、ユーロスペーストルンカの3大長編大作を観る機会を得たが、どれも素晴らしいものだった。なぜかその後あまり話題にならず、ビデオも調べるとあることになっているが、渋谷ツタヤにもなく、トルンカと言えば短編、というコンセンサスになっているのか。ちなみにもう二つの長編は『バヤヤ』『皇帝の鶯』だが、これらについては後で言及する。特に『バヤヤ』はすごい。

5日、やはり録画した『ジャッキー・チェン酔拳』を観る。付け加えるものもないほぼ完璧な娯楽作品。何度観ても面白いし、笑える。なんなんだ、これは?ジャッキーはすでにチャプリンの領域に達していたということか。唯一もの足りないのはかわいい女の子が絡まない、ということか。この辺は彼を始め、スタッフ一同がアクションで頭が一杯で、そこまで頭が回らなかったという「若さ」を感じる。
ちなみに私の母はカンフー映画がきらいである。母にとって映画は『男はつらいよ』とか小津や成瀬などのドラマ系で、カンフー映画は「最初から終わりまでただ暴れているだけ。」としか思えない。実はこれが一般社会の圧倒的多数のカンフー映画観かもしれない。